兵庫県篠山市NIPPONIA 社員旅行2022 Vol.1
6月12日、朝、静岡駅を出発し、列車にて3時間、正午過ぎに目的地、JR篠山口駅に到着した。創造舎、16人による2泊3日の社員旅行の目的地は兵庫県篠山市。全国で街づくりを展開し、NIPPONIAを運営する株式会社NOTEの拠点でもある。
タクシーに分乗し、約10分、街のほぼ中心にあるNIPPONIAのフロント棟(ONAE棟)に到着した。低い軒先が通りに平行に走り、漆喰の二階の壁の上にどっかりと瓦のむくり屋根の乗る、落ち着いた町屋である。NIPPONIAの目印でもある白い暖簾が建物幅いっぱいに掛けられ、その粗い生地によって生成されたであろう影の中に、玄関も、格子の出窓までもが、吸い込まれるように息をひそめているように感じられる。
チェックインと街中での昼食を済ませると、待ち合わせ時間までの、中途半端に余った時をそぞろ歩きで消化し、14時、待ち合わせ場所にて株式会社NOTE取締役の星野氏とお会いした。手短に我々、創造舎の静岡での活動、つまり人宿町と丸子宿での活動を紹介し、星野氏へと話のバトンを渡した。以下、その要旨を記す。
株式会社NOTEの代表取締役、藤原氏は地元篠山出身であり、活気のなくなっていく地元を憂慮していたそうだ。そんなとき、篠山市街地から数十分離れた里山、丸山集落における、宿泊施設による村の活性化計画に参画し、現在のNIPPONIAの原型ともなるメソッドを確立することに成功した。一方、星野氏は篠山出身ではなく、ランドスケープ関連の仕事をしていたが、NOTEへの参画を打診され、まさにやりたかった事業内容であったため、入社を決断したそうだ。
結論から言えば、NIPPONIAは、日本のツーリズムを変えた。そのツーリズムの中心にあるのは、里山の風景と日常。ゲストはそこで営まれる日常に参加し、住民とともに街を営む。そしてそれこそが、唯一無二の体験になる。中には、その体験に魅了され、短期滞在者から長期滞在者である住民となる人もいる。こうして、街の関係人口は増えていく。
NIPPONIA篠山では、街に分散しているリノベーションされた古民家一棟に一組のゲストが宿泊する。まず、レストランのあるフロント棟(この棟には数室の宿泊室もある)でチェックインし、徒歩、もしくは車によって宿泊棟へと移動する。朝食とディナーはフロント棟へ向かう(車での送迎あり)。いわば、街全体が体験の場としてあり、多様な場を回遊する機会がふんだんに設けられている。
かつての温泉街が衰退していった原因として、ホテル、旅館がすべての娯楽機能を囲い込んでしまい、その施設の中ですべてが完結してしまっていた、ということは昨今よく語られる。旅行者は宿泊施設から外出しなくなり、次第に温泉街を回遊する人々がいなくなり、結果、温泉街そのものが衰退していった。NIPPONIAでは、まず、この問題が解決されている。
そして、この新たなツーリズムの形を実現するうえで必要不可欠であったことの一つは、街に分散する多数の宿泊棟を集約的に管理する、一か所のみのフロント棟を実現することだったという。というのも、以前は、一つの建物には一つのフロントを設置しなければいけなかったそうだが、NIPPONIAを運営する株式会社NOTEは旅館業法を改正させ、現在のスタイルを実現させた。NOTE(一般社団法人ノオト)の創業メンバーでもある金野氏がnoteの記事でその経緯を詳述されているので、以下、参照されたい。
https://note.com/kazenooto/n/n99ed9f949d32
このように、NIPPONIAでは街全体を一つの宿泊施設として捉え、体験の場とし、宿泊棟を分散させている。このことは、1990年代に伊東豊雄氏が、都市を最大限に活用する都市居住者ノマドの出現を予見していたことを彷彿とさせる。例えば、かつては住居の中にあったキッチンはいらない、都市の中に分散しているレストランやコンビニを使えばいいから。このようにいくつもの機能を備えない住居の在り方を提案し、そのような生活をする都市居住者をノマドとした。都市には飽和しているのだ、かつては住居が必要としていた様々な機能が。ノマドの出現によって、住居は都市の中へと溶け出し、都市と住居空間の境界が曖昧なものになっていく。そして、多くのノマドの描く動線が都市空間の中でオーバーラップし、衝突し、コミュニケーションが多発する。
この考え方を念頭におくと、NIPPONIAにおける宿泊施設の街空間への分散は、そこで生活する地域住民と短期滞在者との衝突する機会を増大させ、多様なコミュニケーションの発生を必然的に起こしている、ということがわかる。
そして、古民家活用とNIPPONIAの店子へのリスクヘッジの手法について。物件は運営会社に賃借され、運営されているので、店子側の資金リスクと運用リスクは小さくなる。また、NIPPONIA側としては、リノベされた古民家の全体的マネジメント(意匠的にも)をすることができ、面的、長期的なまちづくり活動を行っていくことができる。加えて、株式会社NOTE、NIPPONIAの業績もはっきりしているので、古民家所有者の信頼が得やすい、というメリットもある。
宿泊施設の稼働率は約20~30パーセント。これを実現するために建築のイニシャルコストを抑え、必要のない部分は極力、手が加えられていない。一方で家具にはかなりのこだわりが見られる。「ワサビ」というデザイン事務所が関わっているそうだ。
https://wasab.jp/
さらに、篠山にて蓄積されたメソッドは日本各地で展開されている。この事業によって日本がどのように変わっていくのか、楽しみである。
ミュンヒK(筆者のHN)は、20年ほど前にNIPPONIAの運営されていなかった篠山を訪れているが、当時と比較すると、事業の成功が多くの人を惹きつけ、ショップやレストランのクオリティーも向上していた。
このように、ホテル業による街並みや暮らしの継承を主な目的としたNIPPONIA、株式会社NOTEが成果を上げていて、それを享受できるということはこの時代を生きる私たちにとって、とても幸せなことだと思う。そして、星野氏の話を通して、その業績への理解を深めることができたことをここに感謝したい。
https://nipponia.or.jp/